スイスの音楽
スイスは多くの有名な音楽家に愛され、その風光明媚な大自然などに感銘をうけ、数々の名曲がうまれています。主要都市には、世界トップレベルのオーケストラがあり、各地に歴史的な建築と優れた音響効果を誇る音楽ホールがそろっています。また、音楽祭や音楽イベントも多く、クラシックはもちろん、ジャズ、ロック、ポップ、テクノ、カントリー、ブラスバンドからミリタリー音楽、ヨーデルやアルプホルンなどの民俗音楽まで、さまざまなジャンルの音楽を楽しむことができるでしょう。 スイスの方言を使った方言ロックやポップも誕生しています。
グローバルなスイスの音楽
現代的なクラシック音楽からポピュラー、第1次世界大戦後に流行したジャズ、ポップス、ロック、シュラガーと呼ばれる歌謡曲まで、スイスの音楽は世界中の音楽から影響を受けています。
スイスの音楽祭
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スイスほど音楽祭の多い国は他にないといわれるほど、ロック、ジャズ、ブルース、ヒップホップ、ポップスからクラシック音楽まで、様々なジャンルの音楽祭があります。各地で開催される野外フェスは夏の風物詩です。チューリヒの「ライブ・アット・サンセット Live at Sunset」、ベルンの「グルテンフェスティバルGurtenfestival」、ニヨンの「パレオ・フェスティバル Paléo Festival Nyon」「ヴィンタートゥール・ミュージックフェストウィーク Winterthurer Musikfestwochen」、アヴァンシュの「ロック・オズ・アレーヌ Rock Oz'Arènes」「アヴァンシュ・オペラ Avenches Opéra」「オープンエアー・フラウエンフェルト Open Air Frauenfeld」、ロカルノの「ムーン&スターMoon and Stars 」など目白押しです。
- グルテンフェスティバル(ベルン)
- ヴィンタートゥール音楽週間(ヴィンタートゥール)
- ムーン&スター(ロカルノ)
- アヴァンシュ・オペラ(アヴァンシュ)
- モントルー・ジャズフェスティバル(モントルー)
クラシック音楽
スイスはクラシックファンが集まる国です。スイス人の作曲家は多くありませんが、20世紀には、20フラン紙幣の肖像となっているアルテュール・オネゲルArthur Honeggerやフランク・マルタンFrank Martin、オトマール・シェックOthmar Schoeckといった世界的に有名な作曲家を輩出しました。また、ヴヴェイ出身の指揮者エルネスト・アンセルメErnest Ansermetによって創設された「スイス・ロマンド管弦楽団 Orchestre de la Suisse Romande」は、スイスにおける音楽文化の普及に大きく貢献しました。スイス人指揮者のシャルル・デュトワCharles Dutoitやマティアス・バルメルトMathias Bamertは世界トップレベルの指揮者として知られています。そのほか、ワーグナー、ブラームス、ストラヴィンスキーなど他国の作曲家がスイスに滞在し、美しい楽曲の数々が誕生しました。
今日では、スイスの主要都市には世界トップクラスのオーケストラがあります。「チューリヒ・トーンハレ管弦楽団」「スイス・ロマンド管弦楽団」「バーゼル室内管弦楽団」「ベルン室内管弦楽団」「ルツェルン祝祭管弦楽団」「ローザンヌ室内管弦楽団」など伝統的なオーケストラのほか、「バーゼル・シンフォニエッタBasel Sinfonietta」やバーゼルの「ラ・セトラLa Cetra」「カプリチオCapriccio」のバロックオーケストラなど、大小のさまざまな専門オーケストラもあります。
世界的に有名なクラシック音楽祭といえば「ルツェルン・フェスティバル(ルツェルン音楽祭)Lucerne Festival」です。そのほか「チューリヒ・フェストシュピーレ(チューリヒ芸術祭)Züecher Festspiele」やグシュタードの「メニューイン・フェスティバルMenuhin Festival 」「アスコーナ音楽週間 Le Settimane Musicali - Ascona」「ヴェルビエ・フェスティバル(ヴェルビエ音楽祭)Verbier Festival」などがトップクラスの音楽祭として広く知られています。
ヴェルビエ・フェスティバル
アスコーナ音楽週間
Classicpoint.ch(コンサート・カレンダー)
ジャズ
世界的に有名なジャズミュージシャンであるジョルジュ・グルンツGeorg Gruntzは、バーゼル生まれのピアニスト兼作曲家で「ジョルジュ・グルンツ・コンサート・ビッグ・バンドGeorge Gruntz Concert Big Band」の創設者であり、米国のトランペット奏者チェット・ベイカーやチュニジアのベドウィンなど、多様なミュージシャンと共演しました。バロック音楽とスイスの民俗音楽をベースにした実験音楽でも有名。優れたコミュニケーション能力とマネージメント能力を持ち、1972年から1994年までベルリン・ジャズ・フェスティバルのアートディレクターとして活躍しました。また、ジョルジュ・グルンツと同世代のクロード・ノブスClaude Nobsは、世界で最も有名なジャズフェスティバルといわれる「モントルー・ジャズフェスティバルMontreux Jazz Festival」の創設者です。
しかし、スイスが小国でありながらヨーロッパのジャズ・シーンで重要な役割を果たしているのは、2人の功績だけではありません。例えば、ピアニスト兼作曲家のコリン・ヴァロンColin Vallon。1980年にローザンヌで生まれた彼は、ベルンのスイス・ジャズ・スクールで学びました。長い間、ほかのミュージシャンの伴奏をしていましたが、最初のアルバムを出した後、2011年にはジャズ・ミュージシャン憧れの老舗レーベル「ドイツECM」からアルバムをリリース。数年前までミュージシャンが演奏後に帽子を持って客席を回るような、地方の小さなジャズクラブで演奏していましたが、今ではパリやベルリンの有名なコンサートホールで公演を行っています。
ほかにも国際的に活躍しているミュージシャンは何人もいます。エリック・トラファズErik Truffazは、若い世代のミュージシャンの中で国境を越えて活躍するようになった先駆けといえるでしょう。1960年にジュネーヴに近いシェヌ・ブジュリChêne-Bougeriesで生まれたトランペット奏者で、ジャズとエレクトロ・ミュージック、民族音楽を合わせた独特の音楽を展開しています。トラファズは音楽好きの間でとても人気がありますが、それはトレンドを上手く取り入れて、ひとつのスタイルにこだわらない彼の幅広い音楽性が理由のひとつでしょう。DJやラッパー、インドやマグレブのミュージシャンと共演したり、アメリカン・ジャズの名曲を演奏したり、電子トランペットの独特の音色に取り組んだりと、垣根を越えた多彩な音楽活動を展開しています。
ピアニストのニク・ベルチNik Bärtschが率いるグループ「ローニンRonin」は国際フェスティバルでいくつも賞を受賞しています。何度も同じリズムが繰り返されるなか、思いがけない即興が入る陶酔的な音楽は若者に人気があり、北欧や南アフリカ、アメリカでもヒットしています。ほかにも現代のジャズシーンに影響を与えたミュージシャンに、アコーディオン奏者で歌手でもあるエリカ・スタッキーErika Stuckyとピアニストのティエリー・ラングThierry Langがいます。サンフランシスコでスイス人の両親から生まれたスタッキーは、ひとつのジャンルでまとめるのが難しいミュージシャンです。ジャズ・ミュージシャンの伴奏で歌うことが多いとはいえ、ヨーデルとアメリカン・ミュージックの中間のような、とらえどころのない音楽スタイルが特徴。一方、ベテランのティエリー・ラング(1956年ロモン生まれ)は、スイスの伝統音楽に個人的に取り組んだ希有なアーティストのひとりです。モントルー音楽学校(コンセルヴァトワール)の教授でもあり、アメリカの有名なジャズ・レーベルのブルーノートからアルバムをリリースしています。2008年にはフランス芸術文化勲章シュヴァリエを授与されました。
ピアノとベース、ドラムのトリオバンド「ステファン・ルスコーニStefan Rusconi」はヨーロッパ各地でライブ活動を展開し、フュージョンで観客を魅了しています。サクソフォン奏者のニコラ・マッソンNicolas Massonはドイツの老舗レーベルECMと契約を結んでいます。ジャズシンガーのエリナ・ドゥニElina Duniは毎年4月に開催されるブレーメン・ジャズ・フェスティバルfestival Jazzahead de Brêmeに出演。トランペット奏者のフランコ・アンブロセッティFranco Ambrosetti、ドラマーのダニエル・ユメールDaniel Humairとピエール・ファーヴルPierre Favre、ピアニストのイレーネ・シュヴァイツァーIrène Schweizerは数年前からその分野で最も優れた演奏家と高く評価されています。ビール/ビエンヌ出身のサクソフォン奏者ハンス・コッホHans Kochは実験音楽家として知られています。
世界的に有名な「モントルー・ジャズフェスティバル」のほか、ルガーノ、ベルン、アスコーナ、ヴィリサウ、キュリーなど各地でジャズフェスティバルが開催されています。またベルンとルツェルンには有名なジャズ・スクールもあります。
ポップス/ロック/ワールドミュージック
外国でも有名なスイスのポップス/ロックのグループはいくつかあります。そのひとつが、1980年代に活躍したディーター・メイヤーDieter Meierとボリス・ブランクBoris Blankのデュオ「イエローYello」です。1995年にリリースされたアルバム『ハンズ・オン・イエローHands on Yello』は、モービーMoby、マーク・スプーンMark Spoon、ジ・オーブThe Orbなど世界的に有名なテクノ・ミュージシャンらによるリミックス版で、イエローの二人が後の世代にも影響を与えたことが分かります。
DJ BOBOは現在もヒット・アルバムを出し続けるユーロダンス世代の稀なアーティストのひとり。ファンから「キング・オブ・ダンス」と呼ばれるのはそのためです。ポップスとディスコを合わせたスタイルで知られています。
シンガーソングライターのシュテファン・アイヒャーStephan Eicherとハープ奏者のアンドレアス・フォレンヴァイダーAndreas Vollendenderは世界的に有名です。1980年代前半、ハードロックバンドの「クロークスKrokus」は外国で大ヒットを飛ばしました。AC/DCを思わせるヘヴィメタのグループですが、バラードもあります。何度もプラチナディスクを受賞し、1983年には米国テネシー州の名誉市民となりました。
このほかに、U2やデヴィッド・ボウイがインスピレーションを得たと公言するポスト・インダストリアル・ミュージックの「ヤング・ゴッズYoung Gods」や、デスメタルの「セルティック・フロストCeltic Frost」「コロナーcoroner」など、そのジャンルを革新したアーティストもいます。
現在、スイス国内だけでなくヨーロッパで人気のあるアーティストとして「ソフィー・ハンガーSophie Hunger」「ボーイBOY」「ボナパルトBonaparte」「ナヴェルNavel」「マイケル・フォン・デル・ハイデMichael von der Heide」「ハイディ・ハッピーHeidi Happy」「ストレスStress」「ウィリアム・ホワイトWilliam White」「マーク・スウェイMarc Sway」「セヴンSeven」「ラブバグズLovebugs」「バスティアン・ベイカーBastian Baker」などがあげられます。
ラップ
スイスのラップ音楽は1990年代初頭に登場しました。最初はドイツ語圏のラッパーは歌詞を英語で書いていましたが「P-27 feat. Black Tiger」の楽曲「マーダー・バイ・ダイアレクトMurder by Dialect」では、歌詞が英語とスイスドイツ語方言で書かれました。これを期に、ドイツ語方言のラップがブームになりました。方言のラップはフランス語圏とイタリア語圏にもあります。
グラウビュンデン州出身のグループ「リリカス・アナラスLiricas Analas」が2004年にヒット作を出してから、ロマンシュ語もスイス・ヒップホップ界の仲間入りを果たしました。グラウビュンデン州のロマンシュ語ラップの歌詞は地元の人にしか分からない言葉ですが、それでもスイス全国にファンがいます。ドイツ語圏の人気ラッパーには「ブリッグBligg」「ビッグ・ツィスBig Zis」「シュテフ・ラ・シェフ Steff La Cheff」、フランス語圏にはローザンヌ出身の「ストレスStress」「サンズニーク Sens Unik(2010年に解散)」「グレイズ Greis」などがいます。
ストリート・パレード
毎年8月の第2土曜日にチューリヒで行われるテクノパーティー「ストリート・パレード」には各地から何万人ものダンス・ファンが集まってきます。ドイツのラブ・パレードが開催されなくなって以来、ストリート・パレードは世界最大のテクノパーティーとなり、チューリヒで毎年行われるイベントとしても最大です。
ストリート・パレード
方言ロック
歌詞を方言で歌うロックはスイス・ドイツ語で「Mundard-Rock(方言ロック)」と呼ばれます。方言ロックの先駆者となったのは、1960年代に、ギターに合わせて方言で書かれた自作の詩を歌っていた「ベルナー・トゥルバドゥールBerner Troubadours」です。6人のメンバーの中で最も有名だったマニ・マッター Mani Matterは、ベルンの方言でコミカルかつ奥の深い詩を書き上げました。そんなマニ・マッターの歌は現在でもよく歌われており、CDも人気です。
最初はベルンのグループの活躍が目立ちましたが、現在では、全国のあらゆる方言で歌われている「方言ロック」。トニ・ヴェスコーリ Toni Vescoliやポロ・ホッファー Polo Hofer、ルンペルシュティルツRumpelstilz、ミンストレルスMistrelsなどのミュージシャンたちの影響を強く受けながら確立していきました。そして、1990年代には「ツュリ・ヴェストZüri West」、「パテント・オクスナーPatent Ochsner」「シュティラー・ハースStiller Has」などのベルン出身のバンドによってブームとなり、同じくベルンのバンド「ゲーレGölä」の活躍(1998-2002年)で最高潮を迎えました。スイスの音楽業界史上、国内のグループがこれほどヒットパレードに登場したことはありませんでした。また、1990年代後半には、シュテルネフェイフィSchtärneföifi(ベビー・ジェイルBaby Jailの元メンバー)とローランド・ツォスRoland Zoss(シュパンSpanの元メンバー)という子供向けパンクロックのグループが登場しました。ベルン出身の「フュージョン・スクエア・ガーデンFusion Square Garden」は方言でレゲエを歌うバンドグループとして注目されています。そのほか、スイス・ドイツ語圏で有名なのは音楽バンド「プリュッシュPlüsch」、「マッシュMash」、ミュージシャンのシーナSina、フロリアン・アストFlorian Ast、アドリエン・シュテルンAdrien Sternなどです。